
1975年、映画史に衝撃を与えた作品のひとつ「ラスト・タンゴ・イン・パリ」。この映画は、フランソワ・トリュフォ監督の「400 Blows(四〇〇打)」(1959年)やジャン=リュック・ゴダールの「À Bout de Souffle(息が詰まるまで)」(1960年)など、フランス新浪潮と呼ばれる運動を牽引した世代の映画作家であるベルナルド・ベルトルッチ監督による作品です。
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」は、アメリカ人のポールとフランス人女性のジェンヌという二人がパリで出会ったことをきっかけに繰り広げる、肉体的な関係から始まる禁断の愛を描いています。しかし、この映画が単なる恋愛映画として捉えられるのは間違いです。
物語の背景
ポールは妻の死をきっかけに深い悲しみに暮れており、新しい人生を求めてパリにやってきます。彼は孤独と喪失感に苛まれており、ジェンヌとの出会いは彼にとって、現実から逃避できる貴重な存在となります。一方、ジェンヌも過去の恋愛経験から傷ついた女性であり、ポールとの関係を通して自分を解放しようとする思いを抱いています。
二人の出会いは偶然でしたが、すぐに彼らは肉体的な関係を結び始めます。彼らは互いに名前を明かさず、匿名性の下で情熱的な愛を燃やします。この匿名性の状態は、彼らに現実から逃避し、自分たちの本心を解放するための安全な空間を与えています。しかし、同時に、二人の距離も生まれていきます。
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」のテーマ
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」は、単純な恋愛映画ではなく、人間の感情の複雑さを深く掘り下げた作品です。
- 愛と孤独: 主人公たちは、深い孤独感を抱えており、互いに求めるものは肉体的な繋がりよりも心の慰めでした。しかし、二人の関係が進むにつれて、その距離感も顕著になっていきます。
- 現実逃避: ポールとジェンヌは、現実から逃れるために匿名の関係を築きますが、それは真の愛につながるものではなく、最終的には二人を苦しめる結果となります。
- 自己発見: 二人は、この関係を通して自分自身の深層心理や本質に直面する経験をします。しかし、その過程は痛みを伴うものであり、容易な道ではありません。
マルチェロ・マストロヤンニとマリア・シュナイダーの演技力
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」の成功には、主演を務めたマルチェロ・マストロヤンニとマリア・シュナイダーの素晴らしい演技力も欠かせません。マストロヤンニは、悲しみと孤独に満ちたポールを繊細かつ力強く演じ、シュナイダーは自由奔放でありながら、心の傷を抱えたジェンヌを魅力的に表現しました。
特に、映画後半の激しい性描写シーンは、二人の演技力が際立ち、観客を深い衝撃を与えるものとなりました。しかし、このシーンは当時の社会規範に反し、多くの議論を巻き起こすことにもなりました。
映画史に残る作品
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」は、公開当時から物議を醸しましたが、その革新的な映像表現と複雑な人間ドラマは、今日でも高い評価を受けています。この映画は、人間の感情の深淵を描き出すだけでなく、愛や孤独、現実逃避といった普遍的なテーマにも深く切り込んでいます。
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」は、映画史に残る傑作として、多くの映画人に影響を与え続けています。